この記事では、未経験や高卒からでも、独学で在宅の医薬翻訳者になる方法を解説していきたいと思います。
医薬翻訳といえば、産業翻訳の中でも特許翻訳などと並んで単価が高く、また将来性、そして大変やりがいのある仕事なので、この記事を読むことで現在将来どのような道に進んだほうがいいのか迷っている方にとっては、大変有利な情報だと思っています。
私自身の現在フリーランスとして医薬翻訳をしています。在宅で仕事が得られるようになったのはここ数年ですが、それまではCRO(医薬品開発業務受託機関)や、医療機器系の会社などを派遣で渡り歩き、勉強しながら進んできました。
そんな私の学歴は決して良いものではありませんが、20代前半あたりはほとんど自分のエネルギーを英語学習に使っていたため、TOEIC950スコアという韓国の大学時代に取得した資格に随分と今まで助けられています。
とはいっても、医薬翻訳を未経験で始めるのに、TOEIC900点以上を求められることは、ほとんどありません。もちろんあれば、ポテンシャル採用として入りやすいですが、何よりも医薬業界で働きたいか、という意志や、英文法のレベルなどを見られることが多いです。
さて、なにやら難しいと思われている感のある医薬翻訳者になる道を私が解説していきますね(^_-)-☆
①医薬業界未経験の場合、CROに入るのが近道
医薬翻訳になる上で一番の近道と言ってもいいのが、CRO(医薬品開発業務受託機関)で働くことです。
シミックPMS、イーピーエス、クインタイルズ、パクセル、メディサイエンスプランニング、CACクロアといったCROが、医薬品業界でメジャーです。
CROとは、簡単に言えば製薬会社の下請け企業のようなもので、たとえば、武田薬品工業、アステラス製薬、大塚HD、第一三共、エーザイ、中外製薬(外資系で言えば、ロシュ、ファイザー、サノフィ―など)のような製薬会社が本来やらなければならない副作用症例の翻訳などを担当する機関(企業)です。
薬を販売するには、何年もかけて治験をして、それで副作用がでれば、国際的な機関に報告しなければなりません。それをデータとして管理したり、翻訳したりするのがCROの仕事です。
そのためCROで働くということは製薬会社で働くのと近い感覚であり、業務自体は製薬会社の社員と同じことのほうが多いです。そんな私も、上にあげた3つのCROで、翻訳とデータ入力(データマネジメント業務)をしていました。
私の場合、最初は翻訳担当で入り、その後、私の希望でもっと中身を深く理解したいという理由から、データ入力だけを担当したこともあります。
というのも、副作用症例報告書などは、英語力があってもその副作用症例の数をこなしていかないとなかなかスピードが上がらないからです。
ちなみにデータ入力でCROに入る場合、派遣会社を通せばすぐに入れることが多いです。20代の女性から40代の女性までデータ入力で毎日副作用症例を入力しながら業務を勉強し、その後翻訳チームに移る人もいました。(この業界で40代だからと諦める必要は一切なし)
共通しているところは、みな医薬品の仕事にやりがいを持っているところです。この気持ちがあれば、英語力を高めることによって医薬品翻訳の道が開けます。
もし現在医薬品業界にすらいない状態であれば、迷わず副作用症例のデータ入力をお勧めします。
②医薬翻訳に、文系も理系も関係ない
文系、理系で区別したがる人もいるのですが、医薬翻訳において文系なのか、理系なのかはあまり関係ありません。文系であっても理系であっても、医薬翻訳をやる上での医学の背景知識が必要なのは同じことなので、まず日本語で基礎的な部分から学習する習慣をつけていくことをお勧めします。文系出身の私も、それで全く大丈夫でした。
また特に、翻訳には調査力が必要です。翻訳をしながら色々な資料をインターネットで検索して、英文の書き方を真似してみたり、自分で定型を作って溜め込んでみたり、色々な工夫が必要です。
調査力が必要と言っても実務では納期があるためゆっくりやっている時間がありません。報酬が上がるにつれ、実務経験3年以上。というような要求をしている企業が多いのはそのためです。
重大な誤訳や思い違いを防ぐには、高い「語学力」や「読解力」だけでなく「幅広く深い専門知識」が必要なのは言うまでもありません。それはどのように手に入れるのか?
それはまず医薬のことが好きでなければなりません。何かを忘れて一つのことに一定期間取り組む覚悟のある人は、この仕事を覚えれば覚えるほど好きになっていくでしょう。
また、医薬の発展を通して人を助けたいという気持ちがあればもっといいです。
そして薬だけではなく、生理学的知識もおのずと身についてくるので、自分の健康に対しても意識できるようになったり、そういう健康に関して調べるのが好きな人にはこの上なく天職と言えるでしょう。
そのような基礎があって、高い英語力が役立ちます。
また企業によっては理系の人を採用したい。というところもありますが、英文法の知識があると認められた場合、ポテンシャル採用としてCROなどでは、簡単なナラティブの翻訳を任せてもらえます。
ナラティブとは、下にも書きますが、CIOMSフォームの中に書く、何が起きたのか?というストーリーを英文で書くことです。
つまり英文がきちんとできる人であれば、ポテンシャル採用で、簡単なナラティブの翻訳からどんどんステップアップしていくことも可能なのです。
また、CROで働くということは、まさに医薬品の文章に毎日嫌なくらい目を通すことになるので、仕事をしながら学校に行く以上に多くのことが吸収することができます。
現在派遣会社でメディカルのポジションを積極的に採用しているのは、パーソルテンプスタッフとリクルートであり、私はどちらとも登録して、自分に合った案件を探しました。
上にも書きましたが、パーソルテンプスタッフのメディカル部門の派遣コーディネーターは非常に真摯であり、責任感のある女性スタッフが多かったです。今後の医薬品翻訳業界で働くためにしっかりサポートしてくれます。
③TOEICの点数や医学用語よりも、英文法を磨く
医薬翻訳の中でも一番需要があるのは、症例報告書、つまりCIOMSの和訳、英訳です。副作用症例の中にも、抗がん剤の症例だったり、循環器系疾患の症例だったりと、色々な症例に目を通すことになります。抗がん剤の症例は、薬の単価が高いこともあり、翻訳の単価もあがります。
最初は頭がこんがらがるのですが、生理学を軽く勉強することで、あとは専門用語に関しては、MedDRA(メドラ)という専門医学用語辞書ツールを使うので心配いりません。
それよりも何度も言いますが、文法力が必要になります。正しい文法の基礎知識をどのくらい持っているのか。というのが非常に重要なのです。
翻訳者として採用する側も、文法さえ正しくできる人であれば、あとは医薬に関して学んでもらうことで少しずつやっていけるだろう。と判断するのです。
なので英文法のプロになってください。
家庭教師として中学生などに英文法を教えてみたりするのも一つの手。教えることは覚えることでもあるのですから。
また英文法のレベルが低いのであれば、通勤の間に使えるようなアプリなどで強化してみたり、色々方法はあります。アプリは下のほうで紹介します。
ちなみに和訳をする担当者ももちろん必要とされていますが、それ以上に英訳を担当する翻訳者が必要とされているので、英訳の翻訳者としての道を目指すことをお勧めします。
英文法を強化する方法としては、「一億人の英文法」などの本を一つ容易しつつ、アプリなどを使って学ぶのが効果的です。
医薬翻訳の英文法は、「一億人の英文法」のような会話向けレベルです。なので、これより複雑な英文法書で「総合英語 Forest」のような文法書は特に必要ありません。
現在のメディカルライティングは、より簡単に簡潔に事実関係を述べる仕組みになっているためです。
以下のアプリは私も使用していますが、空いている時間に文法の問題をやったりして、データ化してくれるので客観的に文法のレベルがどのくらい上がったのかということを数値としてみることもできますのでお勧めです。
また発音チェックなども録音機能でやってくれるので、英語の総合レベル評価もしてくれて、楽しいですよ( ´艸`)
英文法はこのくらいの基礎が最強に固まることで、ビジネスでも使えるようになります。
多くの人は、この基礎が固まる前に、TOEICの点数をコツやパターンで取ってしまい、結局は発信型のほうはできない人になってしまいがちです。
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④シンプルに、ロジカルに組み立てる思考が必要
一番需要のある症例報告書は、その患者さんが、いつ、どこで、どのように、副作用を発症したのか。ということを書いていくナラティブという部分があります。ここでは事実関係をロジカルに組み立てるので、話し言葉で英語を書いてもいいのですが、前後関係の整合性がとれるような書き方をしなければなりません。
またメディカルライティングには数値がでてきたりします。そのような数値がわからない翻訳者も多く、私は以下の本をお勧めしています。東大生にも人気と言われているこの良書は、amazon での評価をみてもわかるように、翻訳者にとって有益になる本です。
⑤どんなものを翻訳する?
①治験薬概要書 (investigator brochure)
②治験実施計画書 (Study Protocol)
③症例報告書 (Case Report Form)
④CIOMS Form
⑤治験総括報告書 (Clinical Study Report)
⑥CTD (Common Technical Document)
などがメインですが、この中でも、③④が非常に多く、医薬翻訳者未経験者が翻訳するものの入り口となります。
上のスクリーンショットは、④のCIOMS(シオムスと呼んでいる)であり、それほど難しい翻訳ではありません。
CIOMS は、CIOMSフォームと言って、上のスクリーンショットのように定まった形式に、どの薬でどんな有害事象(AE:Adverse Event)が起きたのか?ということを入力して、報告する仕事です。
上にも書きましあが、リクルートスタッフィングでは、メディカル案件が多いので、CIOMSの仕事もあるはずです。また症例のデータ入力→CIOMSの翻訳に昇進する人もやはり多いので、翻訳未経験でもデータ入力から始める人にはお勧めです。
また、ちょっと脱線しますが、上のようなナラティブを書くのに参考になるサイトが以下です。
NCBI(国立生物工学情報センター)
のサイトにはこのように、症例報告の参考になる本物の英語がたくさん載っているのでこちらも参考にしてください。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4175810/
⑥アメリアの「クラウン会員」制度で近道をする
翻訳ネットワークの権威ともいわれているアメリアに入会すると、英訳未経験者でも、アメリアと提携している翻訳関連会社からスカウトされる可能性があります。
アメリアは私もずっと登録していますが、ここには翻訳未経験でもアメリア独自のトライアルに合格することで自分のプロフィール欄にクラウン会員というステータスが付与され、それを閲覧した企業側のスカウトの目に留まることがあるためです。
アメリアでは自分で仕事を探すだけでなく、企業がアメリアの会員のプロフィールなどをみるので、そのようにマッチングしていい会社に出会えることがあるということです。
いずれにしても翻訳者を目指す人であれば、アメリアに入会するのは当たり前というふうに私は考えています。
インターネットでよく見ますが、特に40代以降の世代では、未経験として医薬業界に入るのは難しいと勝手に思い込み、翻訳学校を修了しなければ仕事に就けないのではないか?と不安に思っている人も多いですが、
アメリアのクラウン会員のようにトライアルに合格することで、業務経験者と同様のステータスであるクラウン会員が付与されますので、翻訳業務未経験案件などに採用されやすくなるのです。
また医学・薬学翻訳専門講座などをスクールで修了するよりもコスパが良く、また迅速に、翻訳案件を見つけることができます。
⑦お勧めのアプリ
iTune より医薬業務にかかわるアプリを抜粋しました。
数年後、プロの医薬翻訳者を目指すのであれば、世界でもっとも権威ある週刊総合医学雑誌の1つ、New England Journal of Medicine は一冊くらい持っておいてもいいと思います。
と言いたいところですが、amazon でも注文できなく、価格も4万以上と高いので、アプリで我慢してください。( ´艸`)→スマホに入れるだけでも意識が芽生えるはずです。
NEJM This Week - The New England Journal of Medicine
また、医薬翻訳者を目指すのであれば、日ごろから日経新聞ではなく、日経メディカルを読む癖をつけてみてください。
日経メディカル 電子マガジン - Nikkei Business Publications, Inc.
以下の ICR というアプリは、臨床試験に関わるプロセスを学ぶことができます。
以下のアプリでは、実際に業務で使うPMDAのサイトなどから添付文書(Package Insert)なんかもすぐに読むことができます。
医薬品情報検索 〜 薬速対応 〜 - YAKUSOKU LLC
また、医療機器系の翻訳(結構人気がないのでねらい目)もおさえておきたい方は『日経デジタルヘルス』などもねらい目です。
アプリだけでなく、twitter などでもフォローするようにしてみてください。自分の周りの環境をどんどん医薬翻訳に変えていくのがコツです。
⑧治験で稼ぎながら勉強するのも一つの手段
医薬翻訳のほとんどが副作用症例報告における翻訳です。またCROでは、薬の開発の初期段階である臨床試験の治験の部分に関わることが多く、治験のプロセスがわからないと、何を翻訳しているのかよくわからない状態になってしまいます。
私の場合、CROでデータ入力や翻訳をしたこともありましたし、米系の臨床開発に特化したSaaSプラットフォーム企業(丸の内)にあるので、分かる人はわかるかも…。にもいたので、仕事で毎日治験についてのことを扱っていました。
私があの時後悔しているのは、早い段階で自分自身が治験に参加していれば、治験のプロセスが体験的に頭に入っているので、仕事も覚えやすかったなと思っている点です。
今後、この部分に治験の情報は載せていこうと思いますので少々お待ちを(^_-)-☆
⑨自動翻訳時代でも医薬翻訳者を必要とする理由
最後に、医薬翻訳者を目指す上で心配されていると思う自動翻訳機の存在について語りたいと思います。
最近は自動翻訳などの言葉がよく登場するようになってきたので、翻訳者は必要なくなるのでは?と大部分の人が思い始めているような気がします。
けれども、実際はその逆で、たとえば医薬翻訳の場合、特に英訳をプロレベルでこなせる人の人材は足りない状況であり、これはパレートの法則(80/20の法則)と同じようなもので、100人の医薬翻訳者がいれば、そのうちの80%は医薬の知識があまりないけれども英語ができる人なのです。
つまり自動翻訳は今後進んできますが、今後医薬翻訳者に求められるのは、自動翻訳機がある程度翻訳したものを目を通して修正を加えたり、また成果物を管理したりするマネジメントの業務です。
そのためには人間にしかできない判断力というものが必要になってきます。そうなってくると、今のうちからCROで働いているような経験者は重宝されますし、医薬の業務に精通しているということだけで、ただ英語が話せます~!みたいな人よりも、優位に立つことができます。
今後、医薬翻訳の業界で淘汰されていくのは、ただなんとなく医薬翻訳をやっている人や、ただなんとなくデータ入力をやっている人たちであり、やりがいを感じ日々学ぶ姿勢を持っている人は生き残っていく。と私は考えています。
毎日の中から一つでも学ぼうと意識している人はやはり違うのですね。
いずれにしても医薬業界での経験を作りつつ、英文法を学び、ロジカルに文章を組み立てられることができるようになってくると、医薬翻訳者としての素質はあるとみていいでしょう。
また現在は、通訳案内士のように医薬翻訳者になる資格はありませんが、今後そのような資格が出てくる可能性もあります。
参考ブログ:実は誰でも医学翻訳者になれる!資格認定制度を阻む3つの要因
やはり、学校に行くというよりも実務経験をした人が強いということになりますね。