今回、2回目のキルギスに行くにあたって、せっかく行くのだから全ての州を回ってキルギス語を駆使したい。なんていう妄想から、Wikipediaにあった「キルギスの行政区画」というページをさらに拡大する形で記事を作っていこうと決めた。
というのも毎度のことながら私自身が必要としている情報だからである。現在モスクワからこの記事を執筆しているが、シベリアで行こうと思ったトゥバ共和国やサハ共和国などを断念した後、ヨーロッパロシア側に来て、次はキルギスで現地の人たちとの交流がしたい。という気持ちになってきている。
「ロシア一危険都市と言われるトゥバ共和国の「クズル」に行くのを断念した理由」
そのため、モスクワではほぼ生徒さんとのレッスン、モスクワ視察、キルギス語に集中している。
「メリットなし!なのに「キルギス語」に惹かれ、勉強し始めた理由」
今回この記事を書くにあたって色んな知識が増えた。例えば、私が前から疑問に思っていた事。それはキルギスにはビシュケクという100万都市があり、その他の都市オシュはせいぜい30万人くらいなのに、本当にこの国は700万人も人口がいるのか?ということである。
この2大都市以外はいくつかの10万人規模の都市が複数あるだけで、到底700万人には到達しない気がしていたからだ。けれども全ての行政区画を整理した後、なぜこういう条件なのにこれだけ人口がいるのか?ということが納得いく形でわかってきた。
CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3809229
話は戻って、第二回目のキルギスはビシュケク依存はせずにキルギス語を駆使してオシュからビシュケクに向かう道を1週間ずつ滞在する形で現地の、つまり一人当たりのGDP10万円規模の、本当のキルギスを知る旅にしたい。
そのためには、やはり地区をきちんと理解することが必要だ。さて、はじめていこう。
まずキルギスの行政区画は9つに分けることができる。それらの人口や特徴、見所、地理的なトリビアなどをこの記事で書いていけたらと思う。
①ビシュケク特別市
人口 105万人(2020年)
旅行者のほとんどが訪れる首都。中央アジアの中でも、ヌルスルタン、アルマトイ、タシュケントなどと並んで5本の指に入る大都市。ビシュケクでの生活体験は以前記事にしたけれども、ここビシュケクはアルマトイに比べればアジアっぽさがある一方で、多くの人がロシア語を話し、またソ連時代の建築も多く残っている。そしてロシア系住民も20パーセントほどいるので、中心部を歩いていても本当のキルギスを感じることは難しいかもしれない。
「住みやすさ抜群。日本人の兄弟国家キルギスの「ビシュケク」に2ヵ月住んでみた件」
Airbnbでは1ヶ月6万円くらい払えば十分の良いアパートを借りられる。5万円以内でもあるが現実問題やはり質は落ちる。そういう意味ではジョージアの方が質が良くて安いアパートが多い。と思う。
「格安タワマン都市、ジョージアの「バトゥミ」に住むメリットとデメリット」
またビシュケクは105万人以外にも、郊外のアラメジン地区(Аламудунский район)に25万人の人口が住んでおり都市圏人口は125万人都市と言ってもいいかもしれない。いや実際問題、ビシュケク市東部のカントあたりの人口も多いので、ざっと見積もって150万人都市圏と認定しよう。
②バトケン州(ウズベキスタン、タジキスタンに囲まれた複雑な州)
By Enclaves_in_Kyrgyzstan_RU.svg: - This file was derived from: Enclaves in Kyrgyzstan RU.svg:, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=63714878
人口 54万人(2020年)
キルギス南西部。この州には、ウズベキスタンの飛び地が4つ(チョング・カラ、ジャンギ・アイール、シャヒマルダン、スフ)あり、タジキスタンの飛び地が2つ(カイラガチュ、ヴォルフ)あり、非常に複雑な州である。観光名所的な場所はほとんどない。
これら6つの飛び地に住んでいるウズベキスタン人やタジキスタン人は本土?に行きたい時どのように移動しているのだろうか?飛び地から出る時にキルギスに入国するという形を取り、そして出国するという形をとってウズベキスタンやタジキスタンに行くのだろうか?といつも疑問に思っている。
これら6つの飛び地については調査後、別に専用の記事を作ろうと思う。
ちなみに、人口のうち、75パーセントほどが、地方の村に住んでいるということもあり、発見できる未知の部分が大きそうな州という気もする。また、この州ではたびたびタジキスタンやウズベキスタンとの衝突が起こるので、外務省のページでも、同州の国境付近は危険レベル3に指定されていた。国境付近以外は危険レベル2で、「不要不急の渡航は止めてください。」扱い。
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo_2021T022.html#ad-image-0
最大都市はバトケン市で、それでも2万人ほどの人口しかいない。この州の多くが村に住んでいることがよくわかる数字だ。この写真からは、中国のど田舎の街のような感じにも見える。結構好きな人には好きな景観かもしれない。(笑)
その他のバトケン市内の写真は、こちら(google mapの写真) / Tripadvisorによるいくつかの写真
ちなみに地元のトレッキングオペレーターによって「アジアのパタゴニア」と呼ばれることがよくあるそう。パタゴニア=アルゼンチンとチリの両国にまたがるエリア。
③ チュイ州
人口 96万人(2020年)
ビシュケク特別市を取り囲むように存在している州。ビシュケクと同様にキルギス人以外の人口もいる。特にロシア人は25%にも達する。ビシュケクと同じくらいの割合。ちなみにビシュケクが100万人なので、それを取り囲むチュイ州と合わせて200万都市圏と考えることもできそう(かなり広い範囲で考えた場合の都市圏人口)。
上記の地図はキルギスにあるいくつかの川を青で表したものだけれども、「Chu」と書いてある部分がチュイ川。以下もっとわかりやすい地図。
この川の7割くらいはカザフスタンの土地を流れている。また地形というかビシュケクのあるチュイ川流域の平地からしても、ビシュケクはカザフスタンの都市であっても何らおかしくないような場所にある。
ここで思ったのは、キルギスという国は、西はほぼウズベキスタン、北はほぼカザフスタンに地形的にもってかれてもおかしくないような場所、地形ということ。意味分かりにくいかもしれないけれども、地形的にいうと、かなり微妙な国なんだなと感じる。そういう地形はその国の国民性に関連してくるのではないだろうか?
1枚目の写真をみると、ウズベキスタンの首都タシュケントさえも、シルダリヤ川以南をウズベキスタンというふうに考えた場合、カザフスタンの領土であってもおかしくないような場所にある。こういう地形的に微妙な位置にあると実感しているキルギス人は、おそらくこの二つの国にすごく神経質になっているのではないだろうか。それがキルギス人という民族を団結させているのかもしれない。
ここで学べるのは、キルギスの国土のほとんどが険しい山だということだ。
またこの州の都市の話をすると、ビシュケク郊外にある、Сокулук(ソクルク)という地区は、2.1万人ほどの人口だが、Globus Sokulukという大型スーパーマーケットもあるので便利そう。とはいってもAirbnbではほぼ部屋がないので不便かもしれない。
また、カラバルタ(4.5万人)という比較的大きな町もあるが、ここにもAirbnbはない。それだけ何もない工業都市という感じなのだろうか。余計に行きたくなる。ビシュケクに2ヶ月住んでいた時にキルギス人の友達から聞いたのは、カルバルタは危ないから行かない方がいいよ。と言われた。調べてみるとこの町の主要産業は鉱業。
そして人口は1989年の5.3万人から、かなり減っている。また、カラバルタには4つあるロシアの軍事基地の一つがある。(ソース)
またビシュケクに次いで人口の多いトクマク市(5.3万人)には、ブラナの塔があり、カザフスタンとの国境はすぐそこ。この街はビシュケクから近く、ビシュケク以外のキルギスの都市をお手軽に体験したい場合におすすめ。Airbnbでも部屋がいくつか見つかった。
最後にチュイ州の民族構成を見ていると、ドンガン人という初耳の民族が出てきた。
キルギスに7.3万人(2020年時点)いると言われているドンガン人の半分以上がビシュケク(郊外含める)に住んでいると言われている。彼らはもともと中国にいた漢民族のイスラム教徒で、1862年に中国西部の陝西省から中央アジアに逃げ込んだ人たちで、漢民族とほぼ変わらないという。とはいっても彼らは自らを回族と言っているのだそう。また絶滅危険度が高いドンガン語(北京語に声調を無くし、キリル文字で表記した言語)を話すという。
非常に興味深いではないか。ちなみに、アシュラン・フー(Ашлян-фу)という中央アジアでよく見かける料理は、ドンガン人が持ってきたものだという。
④ジャララバード州
人口 123万人(2020年)
ジャララバード州は、キルギス国内でも第三の人口を抱えている州。また、フェルガナ盆地という地図を見ただけでは一見わからない盆地の一番右側。つまり、地形的にはウズベキスタン国内とも思えそうな場所。この盆地のほとんどの都市がウズベキスタンの都市であり、その外側にキルギスの都市が入れさせてもらっているような形で存在。
ジャララバード州で有名なのは、いくつかの湖(サリチェレク湖など)と、アルスランボブというクルミが取れる場所。有名な観光地として、アルスランボブは、ライオンという意味であり、ジャララバード市から100kmの場所にある。Airbnbでも部屋が借りれる。1,600 m 程の高地にあり、人口は、1.1万人(2009年)程度。
またカラクリという町もあり、2.2万人ほどの人口を持つ。ビシュケク方面(トクトグル方面)に向かう時に立ち寄れる場所。こちらもAirbnbの部屋が数軒あるし、ホテルも多めな印象。
2021年9月、ジャララバード州に行ってきたので、その時の体験記のリンクを以下に貼っておく。
「ジャララバード州(キルギス)で訪れた町、村など(宿泊、観光地、移動方法)」
⑤ナルイン州(本当のキルギス)
人口 29万人(2020年)
国内でもっとも貧しい地域とされている州。中国のカシュガル地区から、陸路でキルギス入りする時の定番ルートである。また、人口の99%がキルギス人。と、キルギスの中でも珍しくキルギス人だけの州と言える。
経済はヒツジ、ウマ、ヤクの放牧とそれにともなう加工業(羊毛、肉など)に依存しているということから、キルギスの原風景をよく残している場所として、美しい山並みが評価されている。そして、この州で有名な観光地がソン湖である。
キルギス旅行といえば、キルギス東部のイシク=クル湖だけれども、そこは外国人も多く行くが、このソン湖はキルギス人がよく行く場所といえば分かりやすいだろうか。この湖の色は非常に美しく、以下の動画ではその美しさが良くわかる。この動画は、ナルン州の田舎の映像も観れるのでおすすめ。
КТРК Кербени Соң-Көл жайлоосунда
また最大の都市ナルイン(4万人)には私がビシュケクのショッピングセンターでATMの使い方が分からなくて店員に聞いていたところ、英語で色々助けてくれたお客さん(のちに友達になった)の故郷(笑)
ナルイン州には2022年8月に行ってきたのでそのときの体験記を以下に貼っておく。
「キルギスのナルン州3大都市(アトバシ、コチコル)に行ってきた理由」
⑥オシ州(キルギスで一番人口が多い州)
人口 111万人(2019年)
この人口はのちに紹介するオシ特別州を含めない数字。Эркеш-Там (イルケシタム)という中国との国境(二つあるうちの一つ)もある。人口構成は、2019年時点でキルギス人が75万人、ウズベク人が30万人。
比較的人口の多い都市として、ウズゲン(4.9万人)、カラ・スー(2万人)、アラヴァン(2.6万人)、ノーカト(1.6万人)、グルチャ(3.3万人)などがある。
⑦タラス州(一番目立たない州)
人口 26万人(2020年)
キルギス北西部にある州。私の中では一番目立たない州と位置づけた。農村人口83.7%、都市人口が16.3%。つまり多くの人々は村に住んでいる事になる。
トクトグル=1.6万人 (2009年)という湖が綺麗な都市を持つ州。ここにはAirbnbでも借りれる部屋がある。またタラス州という名前なのだけど、すぐ国境を超えてタラズという都市がある。ここはカザフスタンである。
'https://www.youtube.com/watch?v=EUrmGPUmDr4
2:26あたりから、トクトグルの上空全景がみれる。この映像は一種の参考になるかもしれない。
タラス河畔の戦い。が行われた場所として覚えておくべきかもしれない。これはアッバース朝と唐、つまりアラブと中華が、751年に中央アジアの覇権をかけて戦った歴史的出来事である。
ちなみにタラス州は2022年7月あたりに行ってきたので、以下に体験記を貼っておく。
⑧イシク・クル州(中国に一番近い州)
人口 48万人(2019年)
有名なイシク・クル湖があるので、キルギス旅行に行く人は、ビシュケクとセットで行くことが多い。初心者向きの州。86%がキルギス人と、キルギス人が多い州だけれどもナルイン州には叶わない。8%ほどのロシア人がまだ住んでいる。
このスクショはキルギス国内の4つの湖を赤丸で示したもの。イシク・クル州は右上の大きな湖でこの州のど真ん中に存在する。非常に存在感がある。真ん中の湖は、ナルイン州のソン湖。一番左が、日本語の情報ではトクトグル湖と表現されることが多いが、実はトクトグル・ダムである。
そして湖としては一番存在感の薄いチャティル湖 (Чатыр Кёль)。ナルイン市内から車で数時間かけていくのが一般的のよう。グーグルマップの写真集でみたが、非常に綺麗な湖。
さて、2019年9月と、2022年9月あたりにイシク・クル州の3都市に行っていたので、その時の体験記事を以下に貼り付けておく。
⑨オシ特別市
人口 32万人(2020年)
ここはキルギス第二の都市であり、変化はしてきているが、ウズベク人の方が人口が多い町。オシ州ではキルギス人の方が多いのに、その中心にあるオシ市ではウズベク人の方が多いのもまた面白い。
数千年の歴史がある都市であり中央アジアでもかなりの古都(中央アジア最古の植民都市で、シルクロードの毛糸生産の拠点として早ければ8世紀から知られていたという)。この写真の裏に聳え立つ山。スライマン=トー(Сулайман-Тоо)が世界遺産であり、オシ市内のど真ん中にあるのでここから街の景色が見える。
Airbnbでも部屋がたくさんあり、ビシュケクからも航空機でオシまで1時間ほどで移動可能。また観光地なのでロシアの大都市から直行便があり、観光客が多く訪れる場所。
最後に
全てのエリアを合計すると、600万人超えに。やはりキルギスの人口が700万人近いというのはは間違ってなかった。今回分かったのはキルギスは国全体で全然都市化していなく、村に住んでいる人口が非常に多いということ。それがキルギスの良い部分なのかもしれない。