近年、ロシアの経済的弱体化とともに、ロシアに長らく支配されているチュルク語を話す国々の連携が深まっているように感じる。以前ブログで書いたけれども、ロシアにいる少数民族の多くがチュルク語を話す民族であり、つまりトルコ人にとってこれらの民族は兄弟みたいなものなのである。
それは東はタタール語、そして日本の真上にあるサハ共和国で話されているサハ語にまで及ぶ。
「ロシアの少数民族の人口順位 TOP57(イケメン、美女写真付き)」
その証拠に、というか、チュルク語系の言語を話す国々を中心に、以下のような動画が視聴されている。
この動画はまさに、チュルク語系の言語を話す国のアナウンサーを集めたような動画。南アルタイ語から始まり、アゼルバイジャン語と続いていく。この動画のコメントを見るとやはりチュルク語系を話す人たちのコメントが多く、我々は一緒だ。というような感情を呼び起こす。
アゼルバイジャン語。も実はチュルク語なのである。ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャンと、コーカサス地方という括りで一緒くたにされることがあるが、言語系統、民族的に言えば、アゼルバイジャンは、トルコや中央アジアと同じ。
さて、こちらの動画もアナウンサーの動画をつなげたもの。ガガウズ語という言語から始まる。つまり何を言いたいかというと、やはり日本人の我々が知らないところで、彼らは同じ系統の言語を通じてお互いに親近感を持っているということなのである。
さて、チュルク語系の言語とは何か?
それは、人口的にも知名度的にも一番代表的な言語がトルコ語だけれども、トルコ語のように母音調和を持っていて、単語の語源がお互いに一致しているのが特徴である。例えば私が生徒さんにトルコ語を教える際に、私が持っているフレーズの単語は一つ一つ語源までチェックしてエクセルに入れているのだけど、基本語彙において、その多くがキルギス語と同じなのである。
つまりトルコ人は現在のアナトリア半島にもともと住んでいた人たちと、後からモンゴル方面からキルギスを通ってやってきたチュルク語系の言語を話す人たちと融合した人たち。こういえばわかりやすいだろうか?
土、太陽、こういうもともと自然界にあったトルコ語の単語はキルギス語と一致。топурак(土), күн(太陽、日)→toprak, güneş
※チュルク語族の言語の割合(参考程度に)
これら今から紹介するチュルク語系の言語は、どこかで単語が一致していたりする。それが、まさにチュルク語系。と一括りにしている理由であり、日本神話のように、トルコ神話というものがあり、これらチュルク語を話す国々の人たちは同じ風習を持っているとさえ言われている。
彼らのほとんどがイスラム化したが、それ以前からあった自然界にある神への考え方は今にも受け継がれている。
「トルコ人の祖先と、モンゴルの「テングリ神話」と「朝鮮神話」が共通している理由」
それこそ、韓国語には昔母音調和があったが、現在は無くなった。というのも色々ここにつながっていて面白い。と思いつつ、以下、話者人口ランキングを紹介していこう。少しでもチュルク語系の言語を知るきっかけになっていただければ幸いである。
20位 ガガウズ語
話者人口 11万人
モルドバ共和国のガガウズ自治区で話されている言語。そのほかにも、ウクライナ、ルーマニア、ブルガリアなどにも少数のガガウズ人が住んでいる。モルドバはウクライナとルーマニアに挟まれるように存在している小さい国であり、そんな白人が住む国の中にポツンと存在しているという点で、これは注目である。
19位 ウルム語
話者人口 19万人
ウクライナ, ジョージア, ロシアなどに散らばっている民族的にはギリシャ人だけれども、言語はチュルク語化してしまったウルム人によって話されている言語。
18位 トゥバ語
話者人口 28万人
トゥバ語とは、モンゴルの北西部にあるロシアのトゥバ共和国で話されている言語。モンゴル人のような顔立ちをしているので誤解されがちだが、モンゴル語ではなく、チュルク語系統の言語だ。この共和国は、ロシア連邦の中でも一番治安が悪いと言われているクズルという都市を持つ。
「ロシア一危険都市と言われるトゥバ共和国の「クズル」に行くのを断念した理由」
17位 カラチャイ・バルカル語
話者人口 31万人
カラチャイ・バルカル語とは、ジョージアの真上にあるエリア、北カフカースのカラチャイ・チェルケス共和国、カバルダ・バルカル共和国に居住するテュルク系民族のカラチャイ人、バルカル人によって話されている言語。
つまり、ジョージアという国は、周りをチュルク語系の国に囲まれているという見方もできる。
16位 サハ語
話者人口 45万人
サハ語。よく、YouTubeなどの動画で、世界一寒い国。などと言われているのがサハ共和国である。ここもロシア連邦内にあるが、モスクワとかなり離れていることや、人口に対するサハ人の割合も多いため、他のロシアの都市とは違い、かなり独立した印象を持つ共和国。
顔が日本人にそっくりという意味で注目されることもある共和国。また、日本の真上に存在する国であることからも、このチュルク語こそが、ユーラシアをまたがる言語。であることがわかる。そこにモスクワやキエフを中心としたスラブ語がロシア人が分散する形で、後に広がっていったということだ。
15位 クムク語
話者人口 45万人
クムク語とは、ロシアのダゲスタン共和国などに居住するクムイク人の間で話されている言語。アゼルバイジャン北部にある共和国だ。
14位 クリミア・タタール語
話者人口 54万人
クリミアに住むクリミア・タタール人によって話されている言語がクリミア・タタール語。タタール語と何が違うの?と思いたいところだが、クリミア・タタール語も、タタール語、バシキール語、カザフ語、キルギス語と同じキプチャク語群なのでさほどの違いはなさそう。
一つトリビアとして、イスラエルという国ができる前に、ユダヤ人が帰る場所をクリミアにしよう。という話が実際にあり、その複雑な事情は以下に書いたことがある。
「公用語はイディッシュ語?九州の真上にある「ユダヤ自治州」と「クリミア」の関係や、見所、滞在費用」
13位 カラカルパク語
話者人口 58万人
ウズベキスタン西部のほとんどを占めるカラカルパクスタン共和国で話されているのがカラカルパク語。カラ(黒い)カルパク(帽子)というのが語源である理由は、これらの言語を話す民族が、黒い帽子を被る民族の国。ということからだそう。
12位 ホラサン・トルコ語
話者人口 40万人
ホラサン・トルコ語とは、イランの北ホラーサーン州、ラザヴィー・ホラーサーン州で話されている言語。ホラーサーン州とは、イランの東部の大部分を占めている場所であり、ここには日本人に似た顔の人たちがいると、イランでもよく話題になる。
つまりすぐ北にはトルクメニスタンがあり、コーカソイド色の強いイラン人からみれば、このホラーサーン州に住むイラン人はモンゴロイドっぽい、つまり日本人に近い顔立ちに見える。
それらの人たちの中に、ホラサン・トルコ語を話すものもいる。
以下の記事で、書いたこともある。
「イランに住む民族 TOP8(ホラサンに住む、日本人似の民族も含む)」
11位 ガシュガーイー語
http://noorphoto.ir/Photo/56754/
話者人口 94万人(2015年)
ガシュガーイー語とは、イランのファールス州に居住する民族集団によって話されている言語。ファールス州といえば、イラン南部あたりであり、地理的に言えば、ドバイのすぐ真上にある州である。イランでも有名な観光地、シーラーズがある場所。
こんなところにも、チュルク語を話す民族がいる。
写真の下のURLからこれらの民族の写真の一覧がみれる。この写真は唯一、まだモンゴロイドの面影を残している顔だったので掲載してみた。
10位 チュヴァシ語
話者人口 104万人(2010年)
ロシアのチュヴァシ共和国で話されている言葉。バシキール語が、タタールの東で話されているのに対して、チュヴァシ語はタタールのちょうど西側で話されているので、タタール語やタタール人という知名度に隠れている言語。
キルギス語の単語を精査しているときにwiktionary で語源としてこの言語も出てくるが、タタール語やキルギス語などのキプチャク語群ではなく、オグール語群といって、歴史的に大ブルガリアでと後の第一次ブルガリア帝国、ヴォルガ・ブルガールで話された言語として現存する唯一の言語となっている。
面白いよね。この言語が、現在はスラブ語化しているブルガリアという土地の歴史にまで関わっているのだから。
9位 バシキール語
話者人口 140万人
ロシアのバシコルトスタン共和国で話されている言葉。ウファなどの都市がある共和国であり、すぐ西側に大都市カザンを抱えるタタール共和国があるので、つい忘れられがちな共和国。ここで話されているのが、バシキール語だ。
地理的にもタタールとほぼ同じ場所にあり、タタール語と同じ、キプチャク・ブルガール語群なので、ほぼ同じ言語とまで言われている。
What are the differences between Tatars and Bashkirs, on the linguistic, cultural and ethnic levels?
8位 キルギス語
話者人口 450万人
キルギス語は、私が気に入っている言語の一つであり、チュルク語の中では一番力を入れている言語。キルギスの出生率が高いので、タタール語人口を近い将来超える可能性あり。チュルク語を比較する動画のコメントなどをみていると、キルギス語を学ぶと、カザフ語も、ウズベク語も、トルコ語も、どの言語からも近いのでお得。といったものを何度か見かけた。
「メリットなし!なのに「キルギス語」に惹かれ、勉強し始めた理由」
7位 タタール語
話者人口 520万人
タタール語を話すタタール人と言えば、ロシア最大の少数民族。タタール人の中には東アジアに近い顔立ちの人も多く、そこに白人が被さっているという面白い外見の人が多い。彼らはロシアの少数民族でありながらも、自分達はタタール人であるというこだわりもきちんと持っており、将来的に独立するのでは?と思われてはいるが、タタール人が多く住むカザン周辺ではロシア人の人口もかなり多く今後はロシア人に同化していくのか?それとも民族運動が起き、独立の方向に向かうのか。は興味深いところだ。
「ロシアの少数民族の人口順位 TOP57(イケメン、美女写真付き)」
6位 ウイグル語
話者人口 1000万人以下
トルコ系の言語はウイグル語もを巻き込んでいる。というのがポイント。とはいってもそのウイグル語はアラビア文字で表示されており、ウルムチなどの空港でも、中国語とウイグル語での表記に、アラビア文字が使われていた。
中央アジアの言語もかつてはアラビア文字を使っていたが、ソ連の南下とともにキリル文字に変わったという歴史がある。
ウイグル人がよく人権問題でデモをする時、イスタンブールでやるのは、ウイグル人とトルコ人が、同じチュルク語というくくりでつながっているためだ。
5位 トルクメン語
話者人口 1100万人以下
トルクメン語は、中央アジアの北朝鮮と言われるトルクメニスタンで話されている言葉。
4位 カザフ語
話者人口 1700万人
カザフ語は中央アジアでもかなりの面積を誇るカザフスタンで話されている言葉。現在はキリル文字を使っているが、将来的にローマ字を採用するという話もある。キルギス語と非常に似ており、カザフ語話者とキルギス語話者ではお互いに意思疎通が可能。
3位 アゼルバイジャン語
話者人口 3000万人
実はアゼルバイジャン語を話す人たちは、アゼルバイジャン本国よりもイランに多い。つまりトルコからすればイランという国は同胞が多く住む国なのである。また、トルコこのチュルク語の国々の中でも、アゼルバイジャンを一番の兄弟と考えている。それはトルコ語とアゼルバイジャン語がかなりお互いに意思疎通可能だからということもある。
「イランに住む民族 TOP8(ホラサンに住む、日本人似の民族も含む)」
実はイランの最高指導者ハメネイ師もアゼルバイジャン人であり、トルコ系。このことを知ることで、なぜトルコとイランが実は強い関係で結ばれているのかや、ロシアがトルコやイランなどを手放すことができない。のかなどがわかってきて面白い。
2位 ウズベク語
話者人口 4400万人
中央アジア最大の人口を抱えるウズベキスタンで話されているウズベク語。今後、将来性があるかもしれない言語。他の中央アジアの言語と違うのは、キリル文字ではなくローマ字表記なので勉強はしやすいという点。
またタシケント、サマルカンド、ブハラ以外にもウズベキスタンには多くの大都市があり、田舎ばかりのキルギスや、無駄に国土が広く移動が大変なカザフスタンよりも、日本の都市間の距離に近い感じで、一度に多くの都市を楽しめることや、地政学的に見ても、かなりポテンシャルがある国。
タシケントは将来性のある都市でもあるので、ここの言語を学ぶのもおすすめ。
1位 トルコ語
話者人口 8000万人
オーストロネシア語族の代表言語がインドネシア語であるように、トルコもチュルク語族の中の盟主。まさに、イスタンブールという大都会はなんでも吸い込んでしまう。これはジャカルタを持つインドネシアと似ていて面白い。
トルコ語はアラビア語やペルシア語の語彙をふんだんに取り入れているが、中央アジアのキルギス語などと同じ単語も多い。もともとはトルコ語のベースとなるものが中央アジアからきたということがわかる。数字の数え方はほとんどキルギス語とトルコ語で同じであることも、その理由の一つ。
つまり中央アジアで話されていた言葉が現在のトルコの方に移動していき、そこでアラビア語やペルシア語の語彙も取り入れたという順番だろう。なので、トルコ語を極めた人は、アラビア語の単語と中央アジアの単語もかなり吸収しているので、アラビア語、ペルシア語、カザフ語などが入りやすくなる。
最後に
これほどユーラシアの西から東までにまたがる語族があったと、改めて認識されたのではないだろうか。これらの国は、ロシアとの距離が離れていくことでまた地政学的な結びつきで発展の余地があったりするので、放っておけない言語。と私の中で定義づけている。
日本人がまだまだ勉強したことのないこれらの言語。かじってみるのもありでは?