アラビア語というのは実にやっかいな言語。と多くの人が思っているのではないだろうか。
その一つの理由として、方言の多さがある。
現在30方言くらいに分けることができ、その中でもそれぞれの特徴からもっと範囲を狭くして10くらいの方言に分けることができる。
この記事ではそんな大まかなカテゴリの10くらいからTOP6を絞り出して公開していきたいと思う。
アラビア語の学習をしようと思っているけどなかなかイメージが湧かない。とか、もっと下調べをしたいという人にとってはおそらくこの記事はなんらかのヒントになるのではないかと思って執筆(笑)。
6位 イラク方言(2900万人)
英語圏ではメソポタミア・アラビア語と呼ばれている。
なんかかっこいい名前じゃない!?
これも二つに分けることができる。
Gilit Mesopotamian Arabic(イラク方言)
North Mesopotamian Arabic(モースル方言)
前者はいわゆるバグダード方言である。後者はバグダードよりも北に位置するモスルという街を中心とした方言。
特徴としてどちらも、ペルシア語やトルコ語由来の日用品名・食品名が多いというのがある。
ちょうどトルコとイランのど真ん中に位置することもあり頷ける。
1国で一つの国の方言を持っているような形だけれども多くの国に囲まれているのでそれらの国境あたりではまた違う方言が話されていたりもする。
5位 スーダン方言(3300万人)
スーダン方言は、スーダン、エジプト、エリトリア、エチオピア、チャドの一部で話されている。というとそんな影響力あるの!?と思われるかもしれないが、地図を見てもわかるようにスーダンに近い国境のみで話されているのでこれだけの国名が出てくる。
おそらく日本ではほとのど学ばれていない方言であり、アラビア方言の中では一番知名度が低いのでは?と思う。
4位 レバント方言(4400万人)
レバント方言は、以下に分けられる。
北レバント方言(レバノンやシリア)
南レバント方言(イスラエルのアラビア語話者、パレスチナ、ヨルダン)
アラビア語話者が wiktionary を使ってアラビア語を勉強している場合によく登場するのが、South Levantine Arabic(南レバント方言)。
私もよく勉強中に目にする。
多くの日本人がアラビア語留学などで関わりそうなヨルダン(アラビア語圏では割と自由がきく国)はSouth Levantine Arabic(南レバント方言)というのは主にパレスチナのアラビア語を言う。
そこを起点として西にはイスラエルのアラブ人、東にはヨルダンのアラブ人という感じでこれらが南レバント方言ある。
北レバントはレバノンやシリアあたりのアラビア語を指す。
さて、wiktionary などの辞書にはまだ反映されていないが、以下の記述からもわかるように、
レバント全域の定住人口によって話されるアラビア語の品種間での高い相互理解性と、国境沿いの変異体の間の明確な区別の欠如に基づいて、南レバントのアラビア語と北レバントのアラビア語が単一のレバント アラビア語に統合されました。
この二つはつい最近統合された。
ちなみに私自身エジプト方言の単語を調べてて気づいたのがエジプト方言とレバント方言の語彙や頻出フレーズは結構同じだったりすることだ。
よく考えてみればエジプトのシナイ半島とヨルダンはすぐ国境を接しているので似ていて当然と言えば当然だ。
またエジプト方言同様、狭いエリアに多くの話者がいるという共通点もある。
いずれにしてもレバント方言とエジプト方言はかなり近い方言なので、アラビア語方言の学習者の中では圧倒的にこのどちらかの方言が学習の対象となっているのが現状である。
3位 半島アラビア語
話者人口 5586万人
イエメン方言(1500万人)
ヒジャーズ方言(1100万人)
ナジュド方言(1800万人)
ドファール方言(13万人)=オマーンのほんの一部のドファール特別行政区で話されている
湾岸方言(1100万人)
バーレーン方言(73万人)
この半島方言というのは実にこんなにも多くの方言に分けられる。というよりアラビア語圏の中心的な国(文化というよりは宗教的な意味やボス国家?としての意味で)でもあるサウジアラビアをはじめとしたアラビア半島にはいくつもの部族がいるため、エジプトのように一つではないということもあり、こんなに分かれている。
この湾岸方言はフスハーにかなり近いと言われているが、それでも他の方言同様、違いもたくさんあると言われている。
2位 マグリブ方言(7321万人)
マグリブ方言は、エジプト以外の北アフリカで話されているアラビア語方言。
モロッコ方言(2900万人)
アルジェリア方言(3600万人)
チュニジア方言(1200万人)
リビア方言(560万人)
ハサニヤ方言(520万人)=モーリタニアで話されているアラビア語
に分けられる。地図の中で二つの赤丸があるエリアであり、このランキングの中ではフスハーから最も遠い言語と言われることもある。
例えばマグリブ方言を話す人たちはドラマなどのメディアを通して習得している(聴くことだけ)エジプト方言は理解できるが、エジプト方言者はマグリブ方言を理解できない場合が多いとも言われる。
人口規模が割と多いのだけど、いくつもの国を巻き込んだ方言であること、またそれぞれの国々が仲が悪いこと、これらの国々が元々フランスの植民地支配を受けていたこともありフランス語がリンガ・フランカとして普及していることなどから、1位のエジプト方言ほどは人気がない。
1位 エジプト方言(7500万人)
エジプト方言は、その名の通りエジプトで話されている方言。一国のみ、しかもナイル川に沿った人口密度が非常に多い部分だけでこれだけの話者がいるエジプト方言はアラビア語圏の映画やエンターテイメントの中心となっており、アラブ諸国の人たちは大体が簡単なエジプト方言が理解できる。
3位の半島アラビア方言や、2位のマグリブ方言と違うところは、それぞれ細かく枝分かれしていないということ。
また4位のレバント方言と語彙が一致するものが非常に多いので、レバント方言との意思疎通は割と簡単である。
ということもありアラビア語方言を学ぶものに一番人気の言語とも言える。
最後に。どの方言を勉強するべき?
フスハーの基礎をしっかり簡単な会話ができるまで身につくと、それぞれの方言は数ヶ月で簡単な会話がマスターできる状態になる。
私はフスハーを何年も勉強した後にエジプト方言(ずっとやりたかったけど封じ込めていた)を勉強したのだけど、フスハーがわからなかった時は全然意味不明だったエジプト方言も、すぐに頭に入るようになった。
またやはりそれぞれの方言はフスハーに向かっているとよくアラビア語圏では言われるのだけど、時代とともにどの方言もフスハーに寄せているのがここ数年で見て取れる。
なのでどの方言(よく行く国の方言を選択)の勉強をする際は、その土地だけ行くなら方言を勉強して、将来的にアラブ全体で活動したい、関わりたいという意味ではフスハーを先に勉強したほうがいいのでは?とも思う。